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De wereld van Ludovic (TV) ルドヴィックの世界

ベルギー映画 (1993)

日本と違い、海外では、TV映画といえども、よく出来た作品は多い〔アメリカのハリウッドの駄作や、安手のインディペンデント映画の方がよほどひどい〕。この映画は、思春期という枠を超えた、ルドヴィックとソフィーの純粋な愛という意味で、最上級の映画と同じ水準に達している。2人の相思相愛の仲は、ルドヴィックが無理解な両親によって1週間田舎に行かされたことで、ソフィーの家出という極端な行動で、逆に引き裂かれてしまう。それが、さらに、ソフィーの自殺未遂により再結合するという結果は、2人の愛情の純粋さと大きさが手に取るように感じられて心地良い。このような優れた作品が、DVDも発売されず、30年近く前のTV放映時のビデオ画像しか手に入らないのは残念なことだ。

12歳のルドヴィックは、ある日、偶然から同じ年のソフィーと出会い心惹かれる。そのことは、彼の不幸な家庭環境が生んだ、“ルドヴィックによる鏡割り事件” の後始末として、ガラス屋に新しい鏡を取りにやらされた帰り、自転車に乗ったソフィーが寄って来て新品の鏡が割れてしまい、ルドヴィックが破片で手を切ったことで、さらに前進する。彼女は、ルドヴィックを自分の家に連れて行き、包帯を巻いて手当する。その際、ルドヴィックは、鏡の破片2個を拾ってポケットに入れる。ルドヴィックが帰宅しても、母も義父も忙しくて帰宅していなかったため、寂しくなったルドヴィックは、鏡の破片の1つをソフィーの家の玄関の前に置いてくる。自分が監視されているように感じたソフィーは、そのことに反撥するが、ルドヴィックは、彼女の母がやっているピアノの個人レッスンに入りたいと言って誤魔化す。しかし、レッスンに来ても、片手に包帯を巻いていては練習もできない。ソフィーは、代わりに、ルドヴィックにダンスを教える。ルドヴィックは、自宅での両親の “自分に対する無関心ぶり” に嫌気がさし、ソフィーが通っているダンスのレッスン会場に行き、残った鏡の破片で合図してソフィーを連れ出し、秘密の場所に連れて行き、親しさを増す。ルドヴィックは、おもちゃのピアノを指一本でゆっくりと弾き、それを電話でソフィーに聞かせる。その子供じみた優しさに感動したソフィーは、家から逃げ出したルドヴィックを自分の部屋に連れて行き、いきなり全裸にして、一緒にベッドに入る。何かをするわけではなく、パジャマで飛び出して来たルドヴィックを暖めるためだ。ところが、そこに、出張を早く切り上げた留守がちな父が戻って来て、いきなりドアを開ける。ルドヴィックはベッドの下に隠れるが、気配を察した父はベッドの下を覗き、全裸の少年を見つけ愕然とする。父が妻を呼びに行っている間に、ルドヴィックはパジャマを着て逃げ帰る。ルドヴィックの両親はパリにオペラ鑑賞に1週間旅行することになり、彼は、海沿いの町に住む祖父母のアパートに預けられる。1人になって悲しくなったルドヴィックには、女性写真家がつきまとう。そして、彼と同じように、寂しくて耐えられなくなったソフィーが、家出して海沿いの町までやって来て、ルドヴィックと嬉しい再会を果たす。女性写真家が ルドヴィックを撮った写真がよくできていたので、それを見たソフィーは、一緒に撮ってもらえば素敵だと思い、スタジオまで2人で一緒に行く。ところが、女性写真家が要求したのは、児童ポルノまがいの写真。2人は上半身裸になって、様々なポーズを要求される。撮影が終わっても、ルドヴィックは家出娘を祖父母のアパートには連れて行けない。そこで、2人は、廃墟のビルで寝ることにする。ソフィーの弟のジョエルは、ソフィーから聞いていた行き先を両親に教え、両親はそれを、家出として警察に通報し、TVでも流される。ルドヴィックとソフィーは、食べる物もなく海岸のコンクリートブロックの隙間に隠れているうちに体力が落ちて行く。そして、ジョエルが女性写真家から同じ被害に遭いそうになった時、スタジオに貼ってあった写真を見て、警察に通報。警察は、女性写真家から2人が隠れて寝ている場所を訊き出し、2人を発見する。ソフィーに問題はなかったが、ルドヴィックは精神的に変調をきたし、自宅に戻っても回復の兆しがないため、心理学者を呼び、結局、精神病院に “囚人” のように監禁される。そのことを何とか弟から聞き出したソフィーは、ルドヴィックが以前玄関に残していった鏡の破片で手首を切って自殺を図る…

ルドヴィック役は、マタイアス・コペンズ(Mathias Coppens)、1978年6月7日生まれ。TV映画なので、1992年の秋の撮影だとすれば、14歳。映画の設定年齢の12歳よりは2歳年上。声変わりはしていない。これが映画初出演。演技が巧いとはとても思えない。これ以後、TVに少し出ただけで子役時代は終わり。年上になってから、TVに少し出たものの、2017年を最後に映画界から去っていった。ジョエル役の面白い子は、テイン・シュミッツ(Tijn Schmits)。TV出身で、この映画が最後の出演作。年齢は不詳。ついでながら、ルドヴィックの相手役ソフィーを演じるのは、ベラ・ファン。ミール(Bella van Meel)。3人の中で 演技は一番上手だと思うが、出演は映画・TVを含めてこれ1作のみ。年齢は不詳。

あらすじ

映画の冒頭、1人の少年が、カメラに向かって、「僕の名前はルドヴィック・マリス。僕には怖いものなんかない」と言うと(1枚目の写真)、真っ直ぐ女子トイレに向かって歩いて行く。その後を、大勢の男子生徒が追う。ルドヴィックは、女子トイレのドアを開けると(2枚目の写真、矢印は女子の印)、洗面台の前で踊っている少女がいる。少女はルドヴィックに気付くと、「何?」という顔をする。ルドヴィックは、「ごめん… ぼ、僕、思ったんだけど… その…」と、冒頭の勇ましい言葉とは裏腹に、すごく弱々しい発言。それを聞いた少女は、ルドヴィックに向かって、両目を寄せて舌を出すと、くすくす笑い、最後は素敵な笑顔になる(3枚目の写真、右の鏡にルドヴィックが映っている)。
  
  
  

ここから、オープニング・クレジット。背景は、ルドヴィックの家。外壁が全面ガラスになった1993年とは思えない洒落たデザインの家で、応接間は広く、その端には壁一面に抽象画が飾られていて、それが仕切りとなって、その隣が真っ白なキッチン(1枚目の写真、矢印はルドヴィック)。応接間の隅の棚には、1993年らしい旧式の電話機が置いてあり、そこから、母のメッセージが聞こえる。「坊や、今日は 客が少ないから、店が早く閉められる。パパを拾ったら、アンリとテオと一緒に食事に行くわ。あなたなら 一人でちゃんとできるでしょ。何かあったら、電話をちょうだい。キス。ママ」(2枚目の写真)。「マルクからルドヴィックへ、伝言。今夜、予定外の会議。ビデオゲームの新作を試した。後で、話してやる。悪いな。お休み」(3枚目の写真、マルクは義父)。お金持ちかもしれないが、愛情のかけらもない家庭だ。
  
  
  

夜遅く、両親は帰宅している。ベッドに横になってしばらく考えていたルドヴィックは(1枚目の写真)、ベッドに立てかけてあったバッドを持って立ち上がると、浴室でシャワーを浴びている母と、その横で歯を磨いている義父のすぐ横のドアの影に隠れ、バッドで、すぐ右側の壁に掛かった鏡を割ろうと構える(2枚目の写真、矢印はバッドと鏡)。これは、自分のことを顧みてくれない両親に対する精一杯の反抗だ。母が、シャワーを終えて、「二度と再婚なんかしないわ。特にフランス系の男とはね」〔ベルギーの半分(南東部)はフランス系〕と言った瞬間、ガラスが割れる音が響き、廊下に鏡の破片が散乱する。ルドヴィックは、そのまま部屋に逃げ込むが、犯人は明らかだ。翌朝、ルドヴィックは罰として、鏡を買いに倉庫のような場所まで行かされる。予め連絡がしてあったとみえて、紙を渡すと正確なサイズに切断された鏡を渡される。ただし鏡の両端に紙テープを貼っただけの簡易包装だ(3枚目の写真、鏡の左上には「マリス」と書かれている)。「ここから遠いのか?」。「ううん。大丈夫だよ」。「ならいいいが、気をつけてな」。
  
  
  

ルドヴィックが鏡を掲げるように持って運んでいると、そこに、冒頭の場面でトイレにいた少女が自転車で寄ってきて、鏡に向かっておどけた顔をし、そのあと笑顔を見せる(1枚目の写真)。しかし、ルドヴィックに自転車のタイヤがぶつかりルドヴィックは転倒し(2枚目の写真)、鏡は粉々になる。少女は、責任を感じて、散乱したガラスを一か所にまとめるが、左手を切ってしまったルドヴィックには手伝えない。2片を拾ってコートのポケットに入れる。それを見た少女は、ルドヴィックが左手で握っている血の付いた紙に気付き、ケガをしていることに気付く(3枚目の写真、矢印)。「すぐ、家に帰らないと」。「家に帰っても、両親は仕事でいないんだ」。「仕事? 土曜に? じゃあ、ウチにいらっしゃい」。
  
  
  

自転車の後ろに乗せてもらったルドヴィックは、「君の名は?」と少女に訊く。「ソフィー。あんたは?」。「ルドヴィック」(1枚目の写真)。次のシーンで、2人はソフィーの家の中にいる。ルドヴィックのモダンだが空虚な広い家と違い、部屋の中はケニアのバレンゴの民芸品で溢れている。ソフィーは、「私、そこで生まれたの」「ケニアには、滝や火山がいっぱいあるわ」と言いながら、ルドヴィックの手に包帯を巻く(2枚目の写真、矢印)。「ほんと?」。「そうよ」。彼は、棚の上の太鼓に目を留め、「これは何?」と訊く。ソフィーは専用のバチを持つと、「もし、あんたが たそがれどき〔逢魔が時〕にこれを叩くと、大コウモリが現わるから、死んで欲しい者の名を告げるの」と言い、手で首を切る真似をする。「誰でも、処分できるの?」。「そう」。ルドヴィックは、義父が死んでくれないかとバチで叩いてみるが、ソフィーは、「お母さんがピアノを教えてる最中なのよ」と止めさせる。ソフィーは、母が、近所の子供にピアノを教えているところに静かに入って行き、母の横に立つ(3枚目の写真)。ルドヴィックは、戸口に立ってそれを見ている。すると、ソフィーが、ピアノの音楽の合わせて静かに踊り出す〔彼女は、学校でリズムダンスのレッスンを受けていることが後で分かる〕。すると、バレンゴの大きな置物の影に隠れていたソフィーの弟が、ルドヴィックを見つけて、おどけて歯を開けて見せる(4枚目の写真)。最後に、ルドヴィックがソフィーに送られて玄関から出て行くシーンがあるが、それは、ベルギーに多い、ごく普通の煉瓦建ての建物だ〔ルドヴィックのようなお金持ちではない〕
  
  
  
  

ルドヴィックが家に帰ると、もちろん誰もいない。母の留守録:「ルド坊や。営業担当者と打ち合わせをしてるわ。午後7時までに戻らなかったら、オーブンで温めて。美味しいわよ。宿題を忘れないこと」。このあとの母の言葉はいつも同じなので、ルドヴィックも口を合わせる。「何かあったら、電話をちょうだい。キス。ママ」。母から義父へのメッセージ:「今夜は3人で一緒に過ごしましょう。カセットを借りたわ。ホールの鏡の交換もしないと〔鏡は再度割れたので、交換できない〕」。ルドヴィックは、都合の悪い話題になったので、音楽の音量を上げて、メッセージを聞こえにくくする。3番目は、義父から母へのメッセージ:「今夜、君に予定がないといいな。午後7時にはそっちにいないと。彼らがやってくるから…」。このどうでもいいメッセージの最中、ルドヴィックは暖炉の薪に火を点ける。最後は、義父→ルドヴィック:「ごめん。キス」だけ(2枚目の写真)。午後7時を過ぎ、両親が帰宅している。暖炉の正面のソファにずっと座っているルドヴィックのそばに義父が寄ってきて、「私たち、出かけるけど怒ってないよな?」と声をかける。「ううん」。義父:「よかった。明日は何か楽しいことをしよう」。母:「今夜はどうするの、坊や? おいしいデザートを幾つか買ってきたわ」。「バレンゴに行く」。義父:「そりゃいいな」。母:「どこ? 聞いたことないわ」。義父:「ケニアだよ」。母:「シルベスター・スタローンの映画ね」。「違うよ!」。その時、チャイムが鳴り、ルドヴィックが玄関を開けに行かされる。そこにいたのは、2人の中年男。義父の友人だ。そして、4人が去った後、ルドヴィックは応接間の端のテーブルに、デザートの皿を前に座り、クリームをひとすくい口に入れてみる(3枚目の写真)。その直後、デザートが焚火の中で燃えるシーンがあるので、あまりお気に召さなかったようだ。ルドヴィックは、電話機の録音装置に向かって、「ルドヴィック・マリスには夕食がなかった。彼は、バレンゴに行き、戻って来ない」と録音する。
  
  
  

ルドヴィックは、そのまま家を出ると、ソフィーの家に向かって走る。そして、植木を乗り越え、1階の出窓から中を覗くと、ソフィーと母と弟が集まって仲良さそうにしている。そこで、自分が来たことを知らせておこうと、拾った鏡の破片の1つを玄関ドアの前に置く(1枚目の写真、矢印)。すると、すぐにタクシーがやって来たので、ルドヴィックは道路の反対側に逃げる。タクシーから降りたのはソフィーの父で、その音を聞いて、ソフィーと弟が玄関から出て来る。父は、さっそくソフィーを抱きしめる(2枚目の写真)。冷淡な義父と比べると、あまりの違いに、ルドヴィックは羨ましくて仕方がない。父と弟が玄関から入って行った後、最後になったソフィーは、先に出て来た時に踏んだ鏡の破片を拾い、これはきっとルドヴィックが置いたに違いないと、辺りを見回す(3枚目の写真、矢印は破片)。しかし、母が出てきて呼んでので、それ以上探すのはあきらめる。ルドヴィックは、せっかく来たのに、すごすごと帰るしかない。ルドヴィックがベッドに入り、ソフィーの夢を見ていると、ドアが開き、酔っ払った中年男が中を覗き、室内の様子を批判したので、びっくりして目が覚める。そこに、泥酔した母が入って来て、ルドヴィックに声を掛けようとして、そのままベッドに倒れ込む。そのような、“子供の存在を無視” した家庭と異なり、外国の仕事から戻って来たソフィーの父は、娘の部屋に入って行くと、ソフィーに向かって、「残念だが、明日の夕方、また出かけなくちゃならん。だが、それまでは、一緒にいられるぞ」と優しく声を掛ける。その間も、ソフィーはずっと鏡の破片を見ている。
  
  
  

月曜日。学校の室内プールを囲むように付けられた2階部分の通路〔プール正面の窓に向かって左手奥が男子用、右手奥が女子用の更衣用個室になっている〕の手すりに寄りかかったルドヴィックが、プールを挟んで反対側の女子用通路をじっと見ている(1枚目の写真)。視線の先には、どこで着替える場所がなくてウロウロしているソフィーが(2枚目の写真)。ソフィーもそれに気付き、何となく冷たい目でルドヴィックの方を見る。そのうち、ルドヴィックは、彼の行動に気付いた男子生徒達にからかわれる。それを無視したルドヴィックは、通路を90度回って、女子の更衣室のある側まで行き、ソフィーに何か言おうとすると、「放っといて。私にまとわりつくのやめてちょうだい!」と非難され、彼女は、そのまま更衣室に入ろうとする。ルドヴィックは、ドアを閉めるのを全力で阻止するが、閉められてしまう。ルドヴィックは、ドアを叩くと 「君をつけてなんかない」と呼びかける。すると、ドアが開いたので、「君のお母さんにピアノを習いたいんだ」と意外なことを言う(3枚目の写真)。
  
  
  

学校が終わると、ルドヴィックは、ソフィーの家に行き、「ド」の場所から教わる。しかし、左手に包帯を巻いたままなので、教えても意味がない。「これじゃ、ぜんぜん使えないわね」。「すぐ治ると思います」。そして、ソフィーの母が代りに少し弾くと、ルドヴィックは、「この曲、土曜に弾いてましたよね」と言う(1枚目の写真)。すると、ドアが開き、顔に色々な色を塗った弟が顔を出して笑う。母は、自分が教える余地はないと思い、「ソフィーが基本を教えるわ」と言って部屋を出て行く。ルドヴィックは、「あの子、誰?」と訊く。「弟のジョエルよ」。「変わってるね」。「そうかも」。2人はグランドピアノの脚元に座ると、ルドヴィックは左手の包帯を解く。「もう治ったの?」。「君が、ここにキスしてくれたら、すぐ治っちゃう」(2枚目の写真、矢印)。「病気がうつるからイヤだわ」。「危険はないよ」。「ピアノじゃなく、ダンスを教えてあげようか」。その先、どうなったのかは分からない。次のシーンは、ルドヴィックの家の夜。ルドヴィックは、夕食を食べようとしない。その時、キッチンで立ち食いしながら雑誌を見ていた義父が、「10月下旬に、パリでグランドオペラフェスティバルがある。行こうか?」と母に呼びかける〔もちろん、ルドヴィックは連れて行かない〕」。それを聞いたルドヴィックは、「じゃあ、休日の間、パリ行くんだね」と嬉しそうに訊く〔ソフィーと過ごせる〕。母は、「この子、また、何も食べない」と、義父に不満を言う。ルドヴィックは、「僕がホウレンソウ大嫌いなこと、知ってるくせに!」と怒って立ち上がると、食卓の前のソファに座り、「僕は、ここで一体何してるんだろ?」と大きな声で言うと、腕を組んで難しい顔をする。義父は、「彼、何て言ったんだ?」と、実に気のない疑問を母に投げかける。母は、ソファまで来ると、「一体 どうしちゃったの?」と訊く。こうした家庭に愛想をつかしたルドヴィックは、メッセージを残していなくなる。「ルドヴィック・マリスには現在連絡不能。僕は、他に用事がある。じゃ行くよ。マルクにメッセージ。ごめん!」。
  
  
  

ルドヴィックが向かったのは、夜行われている、リズムダンスのレッスン場。彼は、ダンス練習場の外の窓に行き(1枚目の写真、矢印)、2枚取った鏡の破片の残りの1枚をソフィーに向け、室内の明かりが彼女に焦点を結ぶようにする(2枚目の写真)。それに気付いたソフィーは、練習を途中で投げ出して(3枚目の写真、矢印)、ルドヴィックに会いに出て来る。
  
  
  

ルドヴィックとソフィーは線路の上を歩く。ソフィーは、「あんた、女の子のジャズ・ダンス好きだったの?」と訊く。「ああ、だってカッコいいだろ?」。「どこに連れて行く気?」(1枚目の写真)。「好奇心旺盛なんだ」。「言いなさいよ!」。「ついて来なって」。「嫌よ、もう帰らないと」。ルドヴィックは、すぐ近くに置いてある “放置された古い客車” にソフィーを連れて行く。ルドヴィックは、小さなテーブルの上に林立するロウソクすべてに火を点ける。「時々、ここに来るの?」。「ううん、特別な時だけ」。そして、「ソフィー」と呼びかける。「何?」。「君のお父さん、タクシーから降りた時、フランケンシュタインみたいに見えた」。「その時 いたの?」(2枚目の写真)。「うん」。「一体どうしちゃったの? 完全にバカげてる」。「映画や本なら、よくありじゃないか」。「そうね」。「お父さん、何してるの?」。「地面に穴掘ってるわ」。「墓掘り人だ」。「違う。鉱石よ。腕がいいの。バレンゴに長いこと住んでた。最近は いつもポーランドやルーマニアに行ってる」。客車から出て、線路に戻った2人。ルドヴィックは、「君の家にもっと行きたいな。もちろん、ピアノだよ」と言い、それが嘘だと知りつつ、ソフィーも嬉しそうに笑う(3枚目の写真)。
  
  
  

夜遅くなっても帰って来ない息子を、母が心配して庭で待っていると、ようやくルドヴィックが帰ってくる。「どこにいたの?」。ルドヴィックは、パスして通り抜けようとする。「答えなさい! 今までどこにいたの?」。「友だちのジョンと…」。ここで、場面は、室内に変わり、義父が2人の友人と一緒に楽しんでいる。部屋に入って来たルドヴィックを見た義父は、「君は、お母さんと私を心配させた。何があった?」と訊くが、ルドヴィックは、それには答えず、義父が持っていた2枚入りのCDの箱を手に取って見る(1枚目の写真、矢印)。「これ、何?」。「2人が私にくれたプレゼントだ」。ルドヴィックは、勝手にCDを持ってキッチンに行くと〔母は、「放っておきなさい」と義父が追うのを止める〕、CDを1枚ずつトースターに入れて(2枚目の写真、矢印)、そのまま “パン焼き” モードにする〔しばらくすると、煙が出て来る〕。ルドヴィックが空のCDの箱を持って自分の部屋に行き、ベッドで横になってヘッドホンを聴いていると、そこに母が入ってくる〔母は、まだ焼けたCDのことは知らない〕。そして、ヘッドホンを外した息子に、「お祖母ちゃんとお祖父ちゃんに電話したわ。2人とも、あなたが1週間会いに来てくれるなんて嬉しいって」と、勝手に決めたことを話す(3枚目の写真)。「じゃあ、そっちはパリに1週間いるの?」。「気晴らしが必要なの」。「いつものことじゃないか!」。「あなたは、海に行くのよ」。腹を立てたルドヴィックは、同じ言葉を母に返す。
  
  
  

翌日、プールサイドで、ルドヴィックがみんなの前で、ソフィーに対するあからさまな求愛行動を要求し、着衣のままプールに飛び込み、“対岸” のソフィーに向かって、「来いよ、ソフィー!」と叫ぶ。それを 恥ずかしいと思ったソフィーは、プールに飛び込むと、「あんたバカね!」「学校に二度と来られなくなるじゃないの!」と言って何度もルドヴィックを水の中に押し込む。夜になり、ソフィーは、鏡の破片を見ながら、自分の行為を反省する。一方、ルドヴィックは、ベッドに仰向けに寝っ転がると、ピアノの写真のついた本を並べて、指でなぞってみる(1枚目の写真)。そのうち、ソフィーの家に電話がかかってきて、出る人が手近にいなかったのでソフィーが出る。すると、『エリーゼのために』をピアノで1音ずつポツリポツリと弾く音が聞こえてくる。これは、ルドヴィックがやっているに違いないと思ったソフィーは、その心遣いに嬉しくなる(2枚目の写真)。そのすぐ後に、ルドヴィックが20鍵盤のトイピアノの横に受話器を置き、左手の人差し指だけで弾いているのが分かる(3枚目の写真)。
  
  
  

夜遅くなり、パジャマに着替えてベッドに仰向けになって考えていたルドヴィックは、もう我慢できなくなり、部屋から出ると、母、義父、友人2人が 酔っ払って下らない遊びをしているのを見ると、パジャマのまま階段を駆け下り、靴を履くと、玄関に掛けてあった自分のコートをつかみ(1枚目の写真、矢印)、家から外に出る。すると、目の前に、義父のバカな友人の車が駐車してあったので、ポケットからマジックペンを取り出すと、助手席のガラスに罵り言葉を書く〔暗すぎて読めない〕。すると、運転席側の外には、何と、赤いコートを着たソフィーがいる。それに気付いたルドヴィック、「ここで何してるの?」と訊くと、「私が、あんたをここに来させたのよ」という以外な返事。「どうやって?」。「簡単よ。あんた、とっても強い欲求を持ってたに違いないから」。「そうなの?」。「そうよ」。2人が向かったのは地下鉄のハンカー〔Hankar〕駅。画家Roger Somvilleの極彩色の壁画『ノートル・タン〔Notre temps〕』で有名な駅だ(2枚目の写真)。改札を通った後で、ソフィーは、「あんたが、バカげた楽器を弾いてるのを聴いた時、助けが要るって分かったわ。女は、哀れみが必要な男が好きなの。知らなかった?」と言う。ルドヴィックは 「男は、バカな女が好きだけど、僕は例外なんだ」と反論する。これで両方の顔が立ち、2人はホームに駆け下りる。ベンチに座ると、パジャマの上からコートを羽織っただけのルドヴィックは、如何にも寒そう。ソフィーが 「凍えるんじゃない?」と訊くと、「うん、まさにそう」と答える。「気がかりね」。「どうかな」。「私をぎくりとさせて喜んでない?」。「ううん」。そのあと、ソフィーは、頭をルドヴィックの肩に “恋人” のようにもたせかける(3枚目の写真)。恥ずかしくなったルドヴィックは、「みんなが見てるよ」と注意する。ソフォーは、「だから?」と訊いただけで、やめようとしない。
  
  
  

ソフィーは、家に着くと玄関をそっと開け、ルドヴィックを中に入れる。次のシーンは、ソフィーの部屋。ソフィーは、黙っていろと口に指を当て、ルドヴィックを入れる(1枚目の写真)。ルドヴィックが、「でも、僕たち何を…」と言いかけると、もう一度 口に指を当て、小声で「しーっ」と言い、ルドヴィックのコートを脱がせて、ドアの脇のコートハンガーに掛ける。次いで、ルドヴィックの方を向くと、彼に自分のコートを脱がせ、脱いだコートをルドヴィックのコートの上に掛ける。そして、ドアを閉めさせると中に連れて行き、向かい合う。「何をするの?」。「毛布の中で暖まりましょ」。そう言うと、ソフィーは、ルドヴィックのパジャマ(上着)のボタンを外し始める。「何を…」。「心配しない」。そして、上着を脱がす(2枚目の写真)。そのあと、ソフィーは自分のセーターを脱ぐ〔シャツは着ていない〕。ソフィーは、次にルドヴィックのパジャマ(ズボン)を降ろそうとすると、パンツを履いていないルドヴィックは、「ダメ」と止めるが、ソフィーは「静かにして」と言いながらズボンも脱がしてしまう(3枚目の写真)。そして、全裸になったルドヴィックにベッドに入るよう指示する。彼が中に入ると、ソフィーも全裸になり、髪を留めていたピンも外し、ルドヴィックの横に入る(4枚目の写真)。ソフィーは、「サンルームにいるつもりで、リラックスして」と言う。ルドヴィックは、「リラックスの仕方なら、知ってるよ」と言ったあとで、「女の子って、僕らが何を考えてるか、どうして分かるんだろう」と追加し、2人はベッドの中で向き合う。「私って、軽薄かしら」。「僕の人生で最高の経験だよ」(5枚目の写真)。
  
  
  
  
  

その時、下の階で音がする。「ドアよ」。「でも、誰が?」。「父さんだわ」。カメラは切り替わり、父が階段を上がってソフィーの部屋に向かう。父がドアを開けると、ソフィーが眠っている振りをしている。父は、ベッドの前に膝を付いて 「ソフィー」と呼びかける。そして、ソフィーが目を覚ました振りをすると、「何か話してると思ったぞ」と言う。「そう? 悪夢を見てたの」。「そうか」。「早く帰れるように調整したんだ」と言うと、お土産を見せる。「ポーランドから持って来た」。「すごい、ありがとう」。ソフィーはお土産を受け取り、それをベッドの下に置くと、ベッドの下に隠れたルドヴィックがお土産を受け取る。父は、ソフィーの様子が変なので布団を剥ぐと、先日と異なり、上半身裸で寝ている(1枚目の写真)〔下半身も裸だが、そこまでは見ていない〕。「寝間着を着てないのか?」。「いいえ」。「成長が早いな。すぐに、私をこんな風に迎え入れてくれなくなるかもな」。父は、娘にキスし、部屋を出て行こうとするが、ベッドの下から顔を出したルドヴィックの頭をソフィーが押し込めた音に気付き、振り返る。そして、コート掛けに男物のコートが掛かっているのに気付き、ベッドの下を覗く。中にいた何かが消える様子が見えたので、体を起こすと、ルドヴィックと顔と正面から向き合うことに(2枚目の写真)。「何のマネだ?!」と叫び、ベッドの反対側に回り、ルドヴィックを引っ張り起こそうとするが、ソフィーも必死につかむので失敗。父は、母を呼びに1階に駆け下りる。その間にルドヴィックは大急ぎでパジャマを着る(3枚目の写真)。父は、母を見つけるが、母は泰然として動こうとしない。「何が起きてる! 彼はこの家で何をしてる!」。ルドヴィックはコートを手に持つと、ポーランド土産を持ったまま階段を駆け下りる、それに気付いた父が後を追おうとするが、ソフィーが、「彼を傷付けないで」と父にしがみつく。察しのいい弟ジョエルは、ドアを邪魔していたバレンゴの置物をどけると、ドアを開けてルドヴィックを外に逃がす(4枚目の写真、矢印はポーランド土産)。父は、それを見ると、傍観していた母に向かって、「あれを見なかったのか? あの子は一体何歳だ? 何か言えよ!」と怒鳴る。母は、冷静に 「朝まで放っておきなさい」と、娘を案じる。
  
  
  
  

一方、ルドヴィックの家では、息子が午前2時を回っても帰って来ないので心配している。しかし、彼が帰宅する場面はなく、いきなり朝食の場面に飛ぶ。そこでは、何事もなかったように3人が座り、ただし、ルドヴィックは食べずにコミックブックを見ている(1枚目の写真)。母が、食べるよう促すと、スプーン一杯だけ口に入れると、またコミックを読み始める。ここで、ようやく、母は、「昨夜は、何をしてたの?」と訊く。それに対し、ルドヴィックは直接答えず、見ていたコミックの内容を話す。母は、怒こりはしないが、ルドヴィックが祖父母の所に行くことは確定したと話し、怒ったルドヴィックは、パンを口に咥えると席を立つ。そして、場面は、地下の動く歩道に座って話し合うルドヴィックとソフィーに。動く歩道の上はみんなが歩いているので、2人が邪魔している所は、男女とも、足を大股にして乗り越えて行く(2枚目の写真)。ルドヴィック:「君と一緒にいられたいいのに。寂しいよ」。「私もよ。でも、両親は私が妊娠したんじゃないかって心配してる」。「君が どうしたって?」。「あんた、言葉も知らないのね! 彼、ポーランドに戻って行ったけど、ずっと私を監視してる。お土産もなくしちゃった」。「ううん、僕が持ってる。ベッドの下にくれたじゃない」。「じゃあ、そのまま持ってて。父さんにはゴミ箱に捨てたと言ったから」。動く歩道が終わり、地下街の中を歩いている時、ソフィーは、上着の交換を提案する。そうすれば、別れても2人は一緒という感覚が保てるから。ルドヴィックは喜んで交換に応じる(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、ルドヴィックは両親に連れられて駅に行き、祖父母の住む海沿いの町に向かう列車に乗せられる。行きたくないルドヴィックは、窓から顔を出し、片腕で顎を支えた 憮然としたムードだ(1枚目の写真)。ソフィーは、その列車が走り去って行くのを寂しそうに見送る(2枚目の写真、矢印は列車)。場面は祖父母の住む7階建てのアパートの3階のベランダから海を見るルドヴィックに変わる。海岸沿いに高層アパートが一直線に立ち並ぶ光景から、場所はオーストエンデ(Oostende)。次のシーンでは、海岸沿いの遊歩道を、ルドヴィックが祖父母に挟まれて歩いている(3枚目の写真)。3人の周囲にはカモメが舞っている。
  
  
  

あまりのつまらなさに、ルドヴィックはゲームセンターに行き、ゲーム機に向かう。すると、黒い服を着た女性が、ルドヴィックに向かってカメラを向ける(1枚目の写真、矢印)。ルドヴィックは、そのあと、浜辺にポツンと建った小さな小屋の背中をもたれかけて、暇そうに座っている。さっきの女性は、ベンチにかけ それをじっと見ている(2枚目の写真)。しばらくすると、女性は立ち上がり、ルドヴィックの前まで行くと、彼が書いていた絵葉書を勝手に取り上げて、「投函しないと」と言う(3枚目の写真)。「切手がない」。「一緒に買えばよかったのに」。「買ってない。盗んだんだ。思ってることを送るには、他にも方法がある」。女性は立ち上がると、ルドヴィックの写真を近くから何枚も撮る。
  
  
  

アパートのベランダにいるルドヴィックに、祖母が声をかける。「パリにいるパパやママに手紙でも書いたら?」。返事は、「どうして? 2人とも、僕に手紙なんか書かないのに」。彼女は話題を変える。「前に来た時は、海岸から一瞬たりとも離れなかったじゃない」。この祖母もいい加減だ。今は11月初旬〔オーストエンデの平均最高気温は11℃〕。だから、ルドヴィックの返事は、「寒すぎる。それに海は汚いから、一歩も入りたくない」というもの。翌日、ルドヴィックが砂浜の柵の上に座って暇を持て余していると、高層アパート群の手前の柵の中を歩いているソフィーに気付く(2枚目の写真)。ルドヴィックは、すぐに 「ソフィー!」と呼びかけ(3枚目の写真)、彼女に向かって走って行く。そして、2人は、邪魔な柵の上で感激の再会を果たす(4枚目の写真)。
  
  
  
  

2人は突堤沿いに高く積み重ねられたコンクリートの消波ブロックの横を手をつないで歩く。ソフィーは、「私がここに来たことは誰も知らない。帰るつもりもないわ」と打ち明ける。「じゃあ、君の両親、何も知らないの?」。「そうよ」(1枚目の写真)。ルドヴィックは、すぐ横にあった高い鉄塔の上まで階段で上がる。そこで、ルドヴィックは1枚の写真を見せる。例の黒服の女性が、たくさん撮った写真のうち1枚を現像し、ルドヴィックにプレゼントしたもので、バックは、砂浜の小屋(2枚目の写真、矢印)。「すごいわ!」。「レディからの贈り物なんだ。彼女、写真を撮ってる。芸術写真だって」。「これ欲しいわ。私たちが一緒のも。あんたと私の!」。ソフィーは、その写真を、大事そうにコートの胸の部分にしまう。夕方になり、行く場所のない2人は桟橋に沿って歩く。一方、ソフィーの家では、いなくなった娘について両親が話し合っている。母:「何をお望み? 彼女を囚人にしておくこと?」。父:「何を言ってるんだ? 私は、彼女に従って欲しいだけだ」。「願いは叶ったじゃない。彼女は行ってしまった。とっても不幸だったから。あなたみたいに、15日ごとに5分だけ会うだけじゃ、子育はできないわ」。この、働くしか能のない父には反省の色もない。「あいつの両親に電話する」。「2人とも旅行中よ。祖父母と一緒に海岸にいるわ」〔ソフィーは、ある程度、母に話している〕。「そこにいるに違いない」。「そこまで行って、彼女を探すの?」。そこに、ジョエルが割り込む。「僕、住所知ってるよ」(3枚目の写真)〔彼には、何も隠せない〕
  
  
  

ルドヴィックとソフィーは、写真家のスタジオを訪れる。彼女は、2人に上半身裸になるよう求める。2人は、前例があるので、抵抗することなく指示に従う(1枚目の写真)。2人はソファに並んで座る。最初は、半分恥かしいので、両腕をそれぞれの膝に置き、ぎこちなく座っていたが、写真家が寄ってきて2人の腕の配置を変え、2人が抱き合う形に変える(2枚目の写真)。次には、キスシーンも(3枚目の写真)。そして、お互いの体に触れあうシーン(4枚目の写真)。これが “芸術写真” とはとても思えない。
  
  
  
  

この写真のシーンと並行して、パリで両親がオペラを聴いている場面が交互に挿入される。写真が過激になるにつれ、不思議と母がそわそわしだし、遂には我慢できなくなって席を立つ。拍手の途中で後を追って出てきた義父が、荷物預かり場にいる母に 「どうした?」と訊くと、「ルドヴィックに、何か大変なことが起きてるの」と、母の直感を述べる(1枚目の写真)。「何?」。「分からないわ! 今すぐ戻らないと!」。オーストエンデは、もう夜。写真家は下らないエロ写真を一杯撮ったくせに、泊めてもくれなかった。2人は、どこか一夜を明かす場所を見つけなくてはならない。工場地帯を歩いていると、最上階が廃墟化した6階建てのビルが見える。ルドヴィックは、「ノーチラスだ! ネモ船長が住んでる」〔ジュール・ヴェルヌの 『海底二万里』〕と夢のようなことを言い、ソフィーを連れてビルの中に入って行く(2枚目の写真)。最上階は、窓ガラスが全部割れて、吹き曝しの凍えるような場所〔オーストエンデの平均最低気温は4℃〕。だが、ルドヴィックはそこで寝ることに決める。「ここに住もう。見たことのない世界だ。でも、寒いね」(3枚目の写真)。
  
  
  

ルドヴィックの両親、ソフィー両親とジョエルの5人は、ルドヴィックの祖父母のアパートに集まり、TVニュースを聴いている。「ベルギー連邦警察は、次の情報提供をマスコミに依頼しました。12歳のルドヴィック・マリスは、11月6日にブリュッセルを発ちました。彼は、11月7日に家出したソフィー・ポラートと一緒だと思われます。ソフィーも12歳で頭が良く、スボンを履いています。情報の至急提供をお願いします」。翌朝、警官は海岸沿いの荒れ地を捜索し(1枚目の写真)、犬を連れて突堤沿いのコンクリートを捜索し、警察のバイクが行き交う。しかし、2人がいたのは、巨大なコンクリートの消波ブロックの隙間。ソフィー:「盗みなんかできない」。ルドヴィック:「何か食べたけりゃ、そうしないと」。2人は手持ちの缶詰を分け合って食べる(2枚目の写真)。そして、警察でも見つけられないのに、どうやって2人の居場所を突き止めたのかは不明だが、悪の写真家が内緒で2人を撮影している(3枚目の写真)。
  
  
  

夜になると、2人は、昨夜見つけた廃墟の最上階に行き、どうやって持ち込んだかは不思議だが、マットレスに寝て布団にくるまり、焚き火で暖を取っている(1枚目の写真)〔マットレスの平均的な重さは10~30kg/①マットレスは盗んだのか? ②はるばる廃墟まで、どうやって捜索の眼をかいくぐって運んだのか? ③6階までどうやって運び上げたのか? ④廃墟で火を焚けば遠くから見え、警察に見つかるのではないか?〕。カメラが2人に近づいていくと、悪の写真家が階段を上がって来るのが一瞬映り、そのあとに2人はキスする(2枚目の写真)。悪の写真家は、2人をカメラで狙い(3枚目の)、フラッシュが光る。2人はハッと身を起こし、ソフィーは 「誰なの?!」と何度も叫ぶが、悪の写真家は何も言わずにそのまま消える。〔本当に卑怯で、嫌らしい女性だ。ニュースは知っているだろうから、通報すべきなのに、こうして利己的な行為に走っている〕
  
  
  

翌朝、ジョエルが、ゲームセンターで、ルドヴィックと同じようにゲーム機に向かっていると、その姿を、悪の写真家が撮影している(1枚目の写真)。一方、消波ブロックの隙間では、急に力尽きたルドヴィックを、ソフィーが必死になって引っ張り上げ、「ここにはいられない! 助けを呼ばないと!」と言うが、ルドヴィックがか細い声で止める(2枚目の写真)〔ルドヴィックは、どうして急に力尽きてしまったのだろう? 確かに、それ以前から食事の量は少なかったが、こんなに急に衰弱するのは、どうみても納得できない〕。一方、ジョエルは悪の写真家に連れられて、モデルにされるべく、スタジオまで連れて行かれる(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

スタジオに連れ込んだ悪の写真家は、ジョエルがソフィーの弟だとは知らないので、“ルドヴィックとソフィーの写真が一杯貼ってある壁” の前で、「自由に見ていいのよ」と言って、撮影の準備を始める(1枚目の写真)〔「怖いの?」と訊くので、彼女はジョエルに何をさせる気なのだろう? どうせロクなことではないに決まっている〕。ジョエルがふと横を見ると、そこには2人の写真が一杯貼ってある。中には、児童ポルノとして利用されかねないような写真も目立つ(2・3枚目の写真)。ジョエルは、あまりのことに目をみはり(4枚目の写真)、すぐに警察に届けようとスタジオを逃げ出す。
  
  
  
  

廃墟での3日目の夜。ベッドに寝たままのルドヴィックは、イスに座ったソフィーに、「行かないよね?」と訊く。「もちろんよ」(1枚目の写真)。そして、「お腹空いてる?」と訊く。「考えたくもない」。ソフィーは、優しくルドヴィックの頬を撫でる(2枚目の写真)。その頃、犬を連れた警官隊が廃墟の階段を登って行く(3枚目の写真)。ジョエルが通報し、警察が悪の写真家のスタジオに行き、2人の居場所を白状させたのであろう。大きな騒音とともに、階段から現れた大勢の警官に、2人は驚き、ソフィーはルドヴィックを守ろうと抱き締める(4枚目の写真)。しかし、2人は、すぐにバラバラにされて1階まで運ばれると、待ち構えていた2組の両親によって、それぞれ引き取られる。
  
  
  
  

ルドヴィックは、祖父母のアパートに連れて行かれ、食事を前に、義父が 「食べないと」と言う(1枚目の写真)。すると、背後から、「しばらく静かにしておいてやったらどうだね」と祖父が言う。義父は、「どうして分かります? 一人の方がいいと? 食べないと。空腹に違いない。風呂も必要だ。悪臭がする」と、反対する。ところが、母は、「もう止めて」と言い、義父は直ちにその言葉に従う〔不思議なのは、体力の残っていたソフィーは、両親が救急車に乗せて病院に連れて行ったのに、もっと状態の悪いルドヴィックが、なぜ入院させられなかったのかだ? もし、入院していたら、せめて栄養剤の点滴なり、もっと適切な処置が施されていたハズで、その後の順調な回復につながったと思われるのに、それがされなかった〕。ここで、祖母がしゃしゃり出て、「おいで、坊や、汚い子をテーブルに座らせておきたくないの」と言い、風呂に連れて行く。しかし、母は動こうともしない。祖母は、風呂に連れていっただけ。だから、なかなか出て来ない息子が心配になった母が、浴室のドアを叩くと、中では、服を着たまま、バスの中に座り込んだルドヴィックに、シャワーから冷水が降り注いでいる(2枚目の写真)〔温水なら湯気が出ているハズだが、全くなく、ルドヴィックが寒そうにしている〕。祖母は、疲れきっている孫が服を脱ぐ手伝いすらしなかったのだ。何と冷たい人間なのだろう。そして、母は、こうなるまで 浴室に近づこうともしなかった。一方、ソフィーは、ブリュッセルに戻る両親の車の中で横になっている〔救急車で病院に連れていかれたが、健康体だったのですぐに解放された?〕。助手席の母が、父に 「1週間は家にいるわよね?」と訊くと、「問題外だ。いつも通りにする〔すぐ、出張する〕」と答える。それを聞いたソフィーは、ジョエルに 「両親は、私たちを嫌ってる」と言う(3枚目の写真)。どちらの家庭にも、あるのは不幸だけ。
  
  
  

ルドヴィックの状態は一層悪化する。母が、ルドヴィックの部屋の壁に貼ってあったものをほとんど破り捨てるように剥がしたこともあり、全く口をきこうとしない(1枚目の写真)〔母は、寄りによって、なぜそんな乱暴なことをしたのだろうか? これも全く理解できない〕。そこで、両親は、無責任にも、というか、傍観姿勢に転じ、心理学者に相談することにする。相談を受けた側は、こんなおいしい話はないので、二つ返事で引き受ける(2枚目の写真、右は、役立たずの心理学者)。その結果、ルドヴィックは、精神病院に監禁され、外部との接触は絶たれ、当然、一歩も外に出ることは許されない “監禁” 状態となる(3枚目の写真)。
  
  
  

次のシーンでは、ソフィーがルドヴィックに会いに行く。すると、ルドヴィックの冷淡な母親が、「家にはいないの」と答える。「じゃあ、どこに?」。「いなくなった」。「でも、どこに?」。母親は、「ソフィー、聞いて。訪問者が許されるようになったら、すぐ知らせるから」と言い、頬を触ろうとするが(1枚目の写真)、ソフィーは、そんなことをさせた母親が許せないので、顔を背けて触らせない。ルドヴィックの閉塞症状は、ソフィーと引き裂かれたことにあるだけなので、愚かな心理学者が何をしようと症状は改善しない。寂しくなったソフィーは、以前、ルドヴィックに連れて行かれた “放置された古い客車” まで行き、楽しかった思い出に涙する(2枚目の写真)。ソフィーの部屋に、チラと家に帰った父がやってきて、抱き締めようとするが、彼女は、以前ほど嬉しく受け止めない。父は、「私たちは お前を愛している。それを、忘れるんじゃないぞ」と言って、部屋を出て行くが、ソフィーは、机に頭を置くと、あきらめたように、「ないよりはマシね」と呟く(3枚目の写真)。ルドヴィックの病院を、ダメ両親が訪れる。壁に向かって頭をぶつけるだけのルドヴィックに、義父は、「もう行くからな」と言い、母は、「明日、また来るわ」と言うが、ルドヴィックは、「家になんか帰るもんか」と口にする〔初めて、2人に口をきいた?〕。次が、ソフィーの家。母が、ピアノのレッスンをしている最中に部屋に入って行ったソフィーは、「彼はどこ? ルドヴィックよ! 知ってるんでしょ!」と声をかける。「今、レッスン中ですよ。それに、どのみち 知らない方がいいわ」。「でも、知りたいの!」(4枚目の写真)。でも、母は教えようとしない。
  
  
  
  

それを助けてくれたのは、何でも知っているジョエル。「これが住所で、これが電話番号」と言い、書いた紙を渡してくれる(1枚目の写真)。ソフィーは、「優しいのね、ありがとう」と言って、頬にキスする。そして、家で電話するのは不味いので、公衆電話から病院に電話する。電話を取った男性の療法士は、できた人間で、ルドヴィックに、「これは規則に反するが、出ろよ。急いだ方がいいぞ」と言って、電話の所まで連れて来る。ルドヴィックが受話器を取ると、ソフィーの声が聞こえてくる。「ソフィー! どこなの? 会いたいよ」(2枚目の写真)。「そっちは、どう?」。「薬漬けにされてる」。「出た方がいいわね」(3枚目の写真)。「できないよ。囚人なんだ。周りは、電気の入った有刺鉄線で囲まれてる。看守たちもいるし」。「まだ、せん妄状態なんだ」。「違うよ。絶対、出られないんだ」。「愛してるわ」。「誰かが来る… こっちに… あと数メートル」。そこで会話は途絶える。病院では、最低の心理学者が、ルドヴィックから受話器を取り上げる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

悲観したソフィーは、自分の部屋に行くと、大切に取っておいた鏡の破片を取り出し、左手首を切って自殺を図る(1枚目の写真、矢印)。そして、涙を流したまま、ベッドに横たわる(2枚目の写真)。母のレッスンはまだ続いているので、救急車が呼ばれたのは、かなり時間が経ってからかもしれない(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、ソフィーの母は、ジョエルと一緒に病院に行く。廊下で待っている時、ジョエルが 「ルド〔ルドヴィック〕には、知る権利がある」と言い(1枚目の写真)、母は 「ない」と、直ちに却下するが、ジョエルの顔を見て 「彼に 話すべきだと思う?」と訊く。ジョエルの返事は、「うん」。その時、2人は病室に呼ばれる。ソフィーは薬が効いて、眠った状態だが、脈は正常で、命に別状はなさそうだ(2枚目の写真)。恐らく同じ日、ジョエルはルドヴィックの病院に行き、彼の役立たずの両親が出て来て車に乗るのを、手前の車に隠れて見ている(3枚目の写真)。
  
  
  

ジョエルは、顔の半分以上をブルーの布で覆った状態で病院に入って行く(1枚目の写真)。そして、患者が自由に遊んでいる部屋に入って行くと、1人離れてイスに座っているルドヴィックの隣に座り、覆いを取って顔を見せ、次いで、ポケットから血にまみれた鏡の破片を取り出してルドヴィックに見せる(2枚目の写真、矢印)。ジョエルは、姉の病室の番号を教えるが、当然、病院名も教えたであろう。次のシーンでは、ジョエルの着て来たコートを羽織り、顔の半分以上をブルーの布で覆ったルドヴィックが、病院から出て行く(3枚目の写真)。そして、そのまま ソフィーのいる病院に向かって全力で走る。途中、ブリュッセルらしい光景が映ったので4枚目に示す(矢印はルドヴィック)。ブリュッセルらしいのは、一般道の真ん中に、交差点の所だけ地下を潜る形になった都心横断道。私は、昔、何度も車でブリュッセルに行ったが、このアップダウンしながら、交差点なしで都心を通過できる無料の一般道の存在には感心させられたものだ〔他の大都市でこんな便利なものがある街はなかった〕
  
  
  
  

ルドヴィックは、ソフィーの部屋に直行する(1枚目の写真)。ソフィーは反対側を向いて眠っていたが、ルドヴィックが、「ソフィー」と声を掛けると、満面の笑顔になって抱き着く(2枚目の写真)。「ルド、寂しかったわ!」。ルドヴィックはソフィーにキスする。「嬉しいわ、ルド」。「どうしてここにいるの?」。「囚人だって言ったからよ。寂しそうだった」。ルドヴィックは、ソフィーの左手の包帯を見て、「だから、腕を?」と訊く。「そうよ」。「よくそんなことが…」。「いいのよ」。そこに、見舞いにきたソフィーの両親が入って来る。ルドヴィックの姿を見て厳しい顔になった父だったが、ルドヴィックが、「僕、今度はベッドに下に隠れませんよ」と笑顔で言うと(3枚目の写真)、ソフィーの母が “もういいじゃないの” という顔で取りなすと(4枚目の写真)、結果は映されないが、許可が出たらしい。
  
  
  
  

それから、何日かが経過し、ソフィーが、ルドヴィックの病院を訪れる。ソフィー:「あと、どのくらいいるの?」。ルドヴィック:「僕が良くなって、現実にないものを見ないようになったら」(1枚目の写真)。「私はどう? ちゃんと見えるの?」。「もちろんさ」。そして、「医者は、君には僕を治せないって言うんだ」と不満を言う。「バカじゃないの!」。「すごくへそ曲がりなんだ」(2枚目の写真)。「あんたの心理学者、どんな風に見えるか知ってる?」。「ううん、教えてよ」。「巨大な恐竜を思い出させるわ」。その言葉で、ルドヴィックは大喜び。2人は両手をつないで くるくると回り出す(3枚目の写真)。
  
  
  

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